御蔵島 旅行・観光ガイド ブログ
御蔵島の廃村 南郷 巨樹の森
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南郷に向かう
南郷は、御蔵島の南東に位置するエリアで、日本一のオオジイがある巨樹の森です。長滝山のように、高地で強風に晒される環境とは対照的で、南郷は低地で温暖な環境なので、植生も異なります。また、海に面した崖地でもあり、オオミズナギドリの営巣地としても知られています。
長滝山と同じように、ガイドが必要なエリアのため、今回も柳瀬さんにお世話になりました。里から南郷まで、車でおよそ40分かかります。
- 御蔵島の南東に位置する南郷。左に見えるのは南郷山荘。
かつて南郷は、御蔵島第二の集落として開拓された地区でした。
御蔵島は、居住できる土地が限られるため、長男以外が集落内に所帯を持つことが禁じられていました。そうして集落を追われた次男以下が、島内に家を建てる場所として開拓したのが、南郷でした。ここであれば、次男以下でも所帯を持つことが許されたそうです。
南郷への移住が始まったのは明治29年頃で、その後、昭和40年頃まで、約70年に渡って人が住み続けました。その間、里との移動手段はもっぱら徒歩で、「オオミチ」と呼ばれる山道を、片道4時間も掛けて行き来していたといいます。
その不便さに耐えきれず住民が島外へと流出していき、南郷の過疎化が進行。ついには廃村となりました。
- 観光用にトイレが設置されている。
現在、公衆トイレが設置されている空き地に、御蔵島小中学校の南郷分校があったそうです。
南郷の開発計画
実は今でも、南郷に新たな集落を造ろうという案は、何度か議論されているそうです。というのも、御蔵島の人口が増えつつあり、現在の里では、住居の面積が足りないためです。
また、南郷に「第二の港」を造るという案も挙がっているそうです。伊豆諸島の多くの島では、一島二港の形になっていて、一方の港が使えなくても、島の反対側の港に着岸できるようにしています。御蔵島においては、南郷がちょうど御蔵島港の反対側に位置しており、第二の港の建設地としては適しているといえます。
南郷まで続く都道は、複数の立派な橋梁が架けられ、かなり大がかりな工事であったことが想像されます。しかし、この道路が着工した当時、既に南郷は廃村となっており、“南郷での港湾建設”の旗印の下で道路建設が進められた背景があります。
都道が現在の位置まで開通したのは、平成に入ってから、およそ20年ほど前だそうです。しかし、20年が経過した今も、岸壁建設の計画は白紙状態で進んでいません。
森に入る
- ここが南郷の遊歩道の入口。
南郷への入口は、この草むら。一瞬「えっ」と思いましたが、草をかき分けていけば、難なく通り抜けられます。
- 草をかき分けて登っていく。
現在、南郷に残っている廃屋は2軒で、いずれも手入れがされており、現在も使われているようです。一方は「南郷山荘」と呼ばれ、山階鳥類研究所も併設され、定期的に人の出入りがあります。残念ながら一般開放はされておらず、立ち入る場合は、管理者の個人に交渉する必要があります。もう一方は、子ども達の体験学習などに利用されているらしく、東屋が併設され、キャンプ場のようになっていました。
ガイドツアーで通る道は、元々農作業用に整備されていた通路だったそうです。10年前にエコツアー用に再整備し、今に至ります。
南郷は廃村ですが、農業用地は今も使われており、畑仕事で島民が訪れているそうです。
南郷は、島の南側に位置するため、里と比べると気候が温暖で、台風や強風の影響も受けにくいそうです。このため、安定した畑作が可能で、現在に至るまで、農地として活用されています。
- 現在も農地として使われており、農作業用の階段などがある。
集落へ至る道
道を進んでいくと、所々に目立つ巨木が生えています。かつて住民がいた頃は、こうした巨木を目印として、土地の境界を決めていたそうです。
- かつて、ここから里への山道が分岐していた。
ここが、かつて里と往来していた道の起点です。里と南郷を行き来する際は、この先、山道を片道4時間も歩いたそうです。現在は、途中が崩落しており、里まで通り抜けることはできません。
島の人の話では、里と南郷で、特に仲が悪かったわけではなく、兄弟や友達もいたので、割と頻繁に行き来していたそうです。
また、里の方に正式な港が整備されるまでは、南郷にも小さな船着き場があり、艀船を出して荷物を陸揚げしていたそうです。天候によっては南郷に着いた荷物を里まで運んでいたらしいのですが、徒歩4時間も掛かっていたことを考えると、当時の不自由な暮らしぶりが想像されます。
御蔵島のオオタニワタリ
南郷の森では、ミズキ、アザミといった草花が見られるほか、至る所でオオタニワタリを目にします。オオタニワタリは、その大振りな葉が特徴的ですが、樹木や岩などに着生して育つという点も興味深い特徴です。
木の幹に着生しているオオタニワタリを見かけました。まるで樹木の一部のようになっていますが、樹木から養分を吸い取っているわけではなく、日光を浴びるために、高い位置を陣取っているのです。
オオタニワタリは、地域によっては絶滅危惧種に指定されており、伊豆諸島でも、限られた場所にしか自生していません。
- 木の幹にオオタニワタリが着生している。
ちなみに、オオタニワタリの芽は食べられるそうで、おひたしや天ぷらにすると美味しいのだとか。
- オオタニワタリの新芽は食用にもなるらしい。
御蔵島の倒木の生命力
御蔵島は地盤が緩いため、所々で倒木がみられます。ただ、倒れてしまった木も、力強く根を張り、成長を続けるのです。御蔵島の樹木の生命力は、豊かな水資源に支えられているといっていいでしょう。
派手に倒れた木の幹から、新しい枝がいくつも上へ伸びているのには驚きました。
南郷のオオジイ
ようやくオオジイに到着。南郷の入口から、徒歩50分ほどの道のりでした。木の周りにはデッキが作られていて、近くには東屋もあります。ここで一旦休憩しました。
これが日本で一番大きなスダジイ。
オオジイもすごいですが、この木を取り囲む原生林も素敵です。ちなみに、オオジイのすぐ背後に開けた空間がありますが、崖地となっていて、すぐ下は海だそうです。
ちなみに、帰りは別のルートを通って帰ります。行きが上から回り込むルートだったのに対して、帰りは下から迂回するルートです。
- 帰りは別のルートを通る。
ずっとガイドさんに付いていくだけなんですが、周囲が木々に囲まれていて、自分がどこを歩いているのかが全く分からなかったです。ガイドさんがいなかったら、本当に遭難していたと思います。
オオミズナギドリについて
御蔵島には、オオミズナギドリ(島ではカツドリと呼ばれる)が数多く生息しています。
主に海上を飛び回りながら、魚を補食して生活していますが、繁殖期になると、親鳥は陸上に巣を作り、日没後餌を巣に運び込み、子育てをします。
- 斜面の穴は、オオミズナギドリの巣穴。
この斜面には、多数の横穴が空いており、オオミズナギドリの巣穴である考えられます。
- オオミズナギドリの滑走路として使われている木。
オオミズナギドリは、割と無計画に巣穴を掘るため、何かの拍子に崩れて埋もれることもしばしば。たまに遊歩道の下に穴を掘られて、人が歩いている途中で、地面が陥没したりします。
巣穴から海へ飛び立つ際には、樹木や斜面などを滑走路代わりに使って、助走をつけて飛び出します。このため、巣穴の周りの樹木は、表面が摩耗して変色しており、オオミズナギドリの通り道になっていることが分かります。
また、体が重く、動きが俊敏でないことから、カラスに襲われることが多く、食いちぎられたオオミズナギドリの死骸が、島のあちこちに転がっています。
都道の終点
帰りのルートでは、およそ30分で舗装路にたどり着きました。ここは、都道の終点で、折り返しのためか、広場のようになっています。終点に何かあるわけではなく、ひたすら森の中にコンクリート舗装の道路が続いているだけでした。
- 森を抜けると、都道の終点の広場に出た。
コンクリートのあちこちに動物の足跡が付いていて何かと思ったら、コンクリートは固まるのに時間が掛かるので、どうしてもその間に動物が横切ってしまうのだそうです。
- もともとは南郷の港湾計画のために造られた道路だった。
道ばたで、体の黒いカタツムリを発見しました。こちら、特に毒があるわけではなく、食べている植物の影響だそうです。
都道の終点から、さきほどトイレがあった空き地まで、徒歩10分ほど。これで南郷を一周したようです。
- 探索日
- 2014/04/27 - 30
レポートの執筆にあたって 御蔵島の社会~離島生活を支えてきた論理~(小島孝夫) を参考にさせていただきました。著者・関係者の方々に深く感謝申し上げます。
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