鹿島臨海工業地帯 旅行・観光ガイド ブログ
波崎ウィンドファーム・ウィンドパワーかみす洋上風力発電所
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神栖市の風力発電所
神栖市では、海からの強い風を利用した風力発電が盛んです。工業地帯という土地柄もあって、民家から離れた場所に土地を確保しやすいのも、神栖市の風力発電を後押ししている要因です。
今回は、神栖市の風力発電事業会社に勤めているEさんにご案内いただきながら、市内6箇所の発電所を巡りました。
波崎ウィンドファーム
波崎ウィンドファームは、コスモ石油系の風力発電会社「エコ・パワー」が運営する風力発電所です。12基の風車が並んでいて、総出力は15,000kWに達します。風車メーカーは、ドイツのDeWind社です。
運転開始から12年(訪問時)が経過しており、寿命20年といわれる風力発電では、折り返し地点だそうです。
ちなみに、基礎知識として、Eさんに風車用語をいくつか習いました。風車の羽根の部分は「ブレード」、羽根の軸の部分は「ハブ」、ハブが取り付けられている箱のような部分は「ナセル」と呼ぶそうです。
波崎ウィンドファームの風車は、ナセルまでの高さが60メートルほどあり、ブレードが20メートルほどのため、回転するブレードの最高点は、地上から80メートルほどまで達します。
現在は、国の基準で、風車の塗装に使える色が決まっており、多くの風車が、白っぽいグレーの塗装になっています。しかし、ここの風車は、基準ができる前に建ったため、ブレードの先端が赤くなっています。個人的には、こちらの方が格好良くて好きですが…。
風力発電は、通常のビジネスと同様に、事業計画を作成し、銀行などから投資を受けます。風車1基の値段は、だいたい6~7億円で、一般的には、12年程度で元が取れるように計画することが多いようです。
- 波崎ウィンドファームを一望できる展望台。
ちなみに、気になる耐震性ですが、実は、風車は地震には強いそうです。というのも、どの風車もタワー部分が柔軟にできており、揺れを吸収する構造になっているためです。
波崎風力発電所
波崎ウィンドファームの南側には、波崎風力発電所があり、事業者は、波崎ウィンドファームと同じエコ・パワーです。運転開始はこちらの方が古く、2基ある風車は、既に竣工から18年(訪問時)が経過しています。
風車メーカーは、デンマークのNEG MICON社です。波崎ウィンドファームと同様に、色の基準が決められる前だったため、自由度の高い塗装となっています。
普段から仕事で風車のメンテナンスを行っているEさんによると、点検のため、日常的にナセルまで登っているそうです。というのも、ナセルにはセンサー類やコンピュータが集中しており、最も故障しやすいのだとか。
60メートル程度の風車であれば、内部のハシゴを使って登るのが一般的なのだそうです。60メートルのハシゴというと、落下の危険性もありそうですが、一定階層ごとに部屋が区切られていて、万が一の事態にも備えた造りになっているとのこと。なお、風車にはエレベーターが備わっている場合もありますが、定員が少なかったり、昇降に時間が掛かったりするので、特に若手作業員はあまり使わせてもらえないそうです。
- 地権者とのトラブルが絶えないという市道の封鎖区間。
風力発電所とは関係ありませんが、波崎風力発電所のすぐ南側に、地元で有名なスポットがあります。
物々しい雰囲気が漂うこの場所は、神栖市と地元の地権者が争いを繰り広げている最前線です。元は、神栖市が地権者の同意を得ないまま、勝手に市道を整備したことがトラブルの原因だったようですが、その後、市道を利用する一般市民が暴行などの被害に遭っていて、神栖市も近づかないように呼びかけています。現在は、地権者によって市道が封鎖され、通行料を納めるための関所のような小屋が建てられているそうです。
封鎖区間の入り口には、管理カメラや赤色灯などが設置され、立ち入れば銃撃されそうな雰囲気です。
神栖風力発電所
波崎ウィンドファームの北側にあるのが、神栖風力発電所です。石油・LPガスなどを扱う(株)ミツウロコの子会社が運営しています。神栖風力発電所には、5基の風車があり、総出力は、10,000kWに達します。
風車メーカーは、デンマークのVestas社です。運転開始は2008年で、神栖の中では比較的新しい部類に入ります。Vestas製の風車は、ブレードが薄くなっていて、回転時にしなる設計になっています。これにより、優れた静音性を実現していて、高い風切り音が特徴的です。
一方で、他社製に比べてナセルが重く、揺れやすいという特徴もあります。一般的な風車でも、メンテナンス時には一定の揺れがあるため、作業員は「風車酔い」に慣れる必要があるそうですが、ナセルの重量が重いほど、揺れ幅が大きくなります。
Eさん曰く、ミツウロコの風力発電はCSR的な目的が強く、コストを度外視した過剰な設備が見受けられるとのこと。(例えば、本来間引きができる航空障害灯が全機に設置されているなど)
風車の建設で一番苦労するのは、資材の搬入だそうです。タワー部分は、分割されて運び込まれますが、ブレード部分は分割できないため、高度な運搬技術が求められます。
神栖の風車の多くは、日立造船がタワー部分を建造し、ブレードは中国製だそうです。どちらも、近くの鹿島港から陸揚げされ、建設地までは陸路で運ばれます。20~30メートルほどのブレードを運ぶには、道路の閉鎖や電柱の移設など、大規模な作業が必要となり、高額な費用が発生するようです。
ウィンド・パワーかみす第1・第2洋上風力発電所
神栖風力発電所の北方約1kmにも、計15基の風車が並ぶ発電所があります。独立系の風力発電事業会社「ウィンド・パワー」が運営する洋上風力発電所で、南側の7基が「ウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所」、北側の8基が「ウィンド・パワーかみす第2洋上風力発電所」と呼ばれています。その名の通り、陸上ではなく、海底に基礎工事を行い建設されています。
タワーの高さは約60メートルで、約38メートルのブレードが付いています。
これらの発電所は、「日本初の本格洋上風力発電所」とされていますが、国が定める「洋上風力発電」の基準は満たしていません。建設当時は、国のルールが無かったらしく、後になって「船舶が必要な場所」という規定ができたため、海岸から橋で結ばれている「ウィンド・パワーかみす」は規定外となってしまったそうです。洋上として認められれば、売電時の価格が上乗せされただけに、気の毒としか言いようがありません。
洋上であること以外に、もう一つ特徴的なことがあります。風車の向きを見てみると、今まで見てきた他の風車とは逆方向にブレードが付いていることに気づきます。これは、「ダウンウィンド」と呼ばれる方式で、通常の風車(「アップウィンド」方式と呼ばれる)が向かい風によって回るのに対して、ダウンウィンド方式は、追い風によって回ります。
- かみす第1発電所では、変圧器が外出しになっている。
ダウンウィンド方式のメリットとしては、風向風速計をハブより前に設置できる点が挙げられます。アップウィンド方式だと、風向風速計を回転するブレードの後ろに設置するしかなく、ブレードの回転で乱れた気流によって、正確な計測ができないことがあります。風車は、風向風速計の値により、ブレードの角度などをコンピュータで制御しているため、計測値が正確であるほど発電効率は上がることになります。
ダウンウィンド方式の風車は世界的にも珍しく、大手メーカーで製造しているのは、日立だけです。日立は富士重工業の風力発電部門を買収した経緯があり、風力発電業界では、ダウンウィンド方式の風車を「スバル風車」と呼んでいるそうです。
風力発電所を評価する際、主に、稼働率と施設利用率という2つの指標があるそうです。稼働率は、メンテナンス時を除き、風車が稼働していた割合で、施設利用率は、風車の発電能力に対する実際の発電量の割合です。
Eさんの勤務先の某発電所(神栖地区)の場合、稼働率は97%を誇りますが、施設利用率は20%程度だそうです。日本だと、これでも高い水準ですが、ヨーロッパだと、施設利用率が60%を超えるのが一般的とのこと。
- 風車は洋上に建っている。
ウィンド・パワーかみす第2洋上風力発電所の北側に、神栖の名物スポットがあるというので、Eさんにご案内いただきました。
ここは、タンカーの入港に対応した防波堤となっていて、立ち入り禁止にも関わらず、釣り人の無断侵入が絶えない場所です。
- 毎年死者を出している防波堤。
死者が出る度に、死者数がカウントアップされていく看板は、この場所の名物となっています。この日時点の死者数は、72名でした。
ちなみに、この近辺で死亡する釣り人は、遠方から来ている人が多いとのこと。地元の人なら近づかないような時化の時でも、遠方から来た人だと、無理する傾向があるそうです。
鹿島港深芝風力発電所
鹿島埠頭の一画に建つ一際大きな風車が「鹿島港深芝風力発電所」です。この風車は、日立が国内最大の洋上風車として開発した「HTW5.0-126」の初号機であり、実証実験の意味合いが強いのですが、一応売電しているため、発電所の一つに数えられています。
ナセルまでの高さは90メートル、ブレードの長さは63メートルあるため、回転するブレードの最高点は、地上から150メートルを超えます。これは、都心の超高層ビルに匹敵する高さです。
なお、この風車は、洋上向けとして設計されているため、陸上での利用は想定されていないそうです。洋上発電では、支柱の建設に多額のコストが掛かるほか、メンテナンスの手間も掛かってくるため、できるだけ出力が大きい大型の風車を建設する流れになっています。逆に、陸上であれば、小型の風車を複数建設した方が、結果的にコストメリットが大きいため、大型風車はあまり好まれません。
- 探索日
- 2016/03/05
このレポートには、さば柄氏 ・ nokinoshi氏 からご提供いただいた写真が含まれています。
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