星山温泉 旅行・観光ガイド ブログ
星山温泉(葉山町) 廃墟のような温泉
このレポートの別ページへ
“ありの木ならでは”の高品質な写真素材を販売中!詳しくはこちら
葉山町にある星山温泉
“廃墟系温泉”のジャンルでは有名な「星山温泉」に行ってみました。
星山温泉は、別荘地として有名な神奈川県の葉山町にあります。その「アクセスの悪さ」や「手作り感あふれる外観」などからマニアの間で有名となり、ファンが多いようです。
アクセス方法については、次のページ「星山温泉への行き方」で説明しています。まずは、現地の様子をレポートします。
ゴミ捨て場のような外観で、一見すると、温泉施設には見えないのですが、ここが「星山温泉」のエントランスです。高い木々で囲まれているため、昼間でも薄暗く、ちょっと不気味です。
星山温泉は、別名「稲龍神山スポーツランド」とも呼ばれ、かつてはスポーツ施設も備えた複合施設でした。今でも「稲龍神山スポーツランド」で検索すると、Googleマップ上にピンが立ちます(若干ずれていますが)。
ここに来る途中、管理人の家の前を通るのですが、センサーが仕掛けてあるらしく、温泉に向かう客を感知すると、管理人が家からバイクで追いかけてくる仕組みとなっています。
今回は、先客がいたため、管理人は既に入口に立っていました。
- 大量の木材は薪として集めたものらしい。
最初に入口で入浴料を支払います。星山温泉の入浴料は、1人あたり1回500円。その日の内にもう一度入浴する場合は、400円となります。ちなみに、1回利用するごとに「補助券」がもらえて、補助券を10枚集めると、1回分タダになるそうです。営業時間は、午前10時~午後6時まで。受付は、午後5時までです。定休日は、水曜日とのこと。
個室のため入浴時間が45分と決まっています。先客がいる場合は、待たされることになるわけです。
イスと簡易的なテーブルが置いてあり、温暖で晴れた日ならば、ある程度外で待つこともできそうです。ただ、やはり山の中ということで、虫が多く、虫除けは必須だと思いました。なお、入口付近に置いてあるイスは、常連さんが寄贈してくれたものだそうです。
- 入口で管理人に料金を払う。
周囲に散乱している廃材は、温泉を炊くための薪でした。知り合い伝てで廃材をもらってくるそうですが、さすがに「貰いすぎた」と思っているらしく、「この廃材が全部無くなる頃にはやめるかも」と話していました。濡れてしまうと、薪として使いにくくなるため、濡らさないように注意しているそうです。
星山温泉に入浴
先にいたお客さんが帰ったため、早速入浴します。浴室は、手前にあるバラック小屋のような建物です。既に煙が上がっているので、それなりに温まっているのでしょう。
星山温泉は、源泉の温度が低く、一度ボイラーで炊き上げる必要があります。かつてはガスのボイラーもあったそうですが、「たまにしか使わないので壊れた」とのこと。
少人数の客には薪の方が効率が良いというのは、なるほどと思いつつ、凄まじいDIY感に驚きます。建築基準法とか細かいことを気にしてはいけません。
さて、ご主人がお風呂を沸かしてくれている間に、我々は浴室へ向かいます。浴室の入口は、正面からみて反対側にあります。
浴室の隣には、これまたDIY感のある流しがあります。まさか、ここで生活しているのでしょうか。しかし、食器類はどれも古びていて、最近使った形跡はありません。どうやら、周囲に建ち並ぶ小屋と関係がありそうです。(後述します)
脱衣場へ入ってみます。
中は意外と綺麗でした。壁や床をゲジゲジが這っている感じを想像していましたが、ある程度清掃されているのか、変な虫はいませんでした。これなら、普通のお客さんでも大丈夫そうです。衣服を入れておくカゴも用意されています。
ただ、脱衣場は狭いので、2人が脱ぎ着するのもやっとという感じです。
当然ですが、脱衣場には鍵が無く、立て付けの悪い引き戸があるだけです。特に女性だと、ちょっと抵抗があるかもしれません。
脱衣場と浴室は、カーテン一枚で仕切られています。
浴室は、木の簀の子が敷いてあって、良い意味で味のある雰囲気。2人で入っても余裕のある広さですが、肝心の浴槽が1人用なので、交代で入浴することになります。
壁には「入浴について」と書かれた板があり、身体を洗ってから入浴すること、浴槽にタオルを入れないこと、私物を放置しないこと、浴室をきれいに保つこと、の4箇条が書かれていました。
蛇口からは、源泉の温泉水が出てきます。けっこう硫黄の匂いがしました。星山温泉は、pH 9.6のアルカリ性なので、触るとヌルヌルします。外観こそ廃墟のような星山温泉ですが、泉質は極めて良好で、全国の温泉マニアを唸らせるだけのことはあります。
ただ、普通の水道水が使えないため、いつまでも身体のヌルヌルがとれないのは、ちょっと気持ち悪い感じでした。蛇口をひねっても温泉しか出て来ないので、石けんの泡立ちが悪く、普通に風呂に入る感覚だと、ちょっと厳しいです。
ちなみに、常連客が用意したものなのか、石けんや洗面器がいくつも置かれているので、タオル一枚あれば、とりあえず不自由なく入浴できます。
浴室の壁は、微妙に屋根との隙間があり、換気口の役割を果たしているのですが、夏場はそこから蚊が入ってきます。入浴中の無防備な身体を狙ってくるのでしょう。また、薪の煙も入ってくるので、浴室がだいぶ煙たくなります。
浴室には、向かい合わせで2枚の壁画があります。一方は富士山で、もう一方はどこかの時計台でしょうか。
後でご主人に話を聞いたところ、この絵を描いたのは、義理のお兄さんだそうで、写真を撮るのが趣味の方とのこと。ヘタウマな感じが、この浴室に合っていて良いと思いました。
ご主人の話によれば、入浴客は、土日で2~3組程度。常連客のほか、たまに新しい客が来るそうです。一人あたりの入浴料が500円ということなので、ほとんど商売にはなっていないと思われます。
星山温泉の歴史と今後
入浴を終えて、改めて周囲を散策してみます。浴室棟以外にも、いくつかの建物が建ち並んでいました。
ご主人によると、大自然に囲まれた環境のため、様々な虫や動物に出くわすらしく、一番の悩みは蜂だそうです。あちこちに蜂を捕らえるための罠が仕掛けられていました。また、タヌキやキツツキも頻繁に見られるそうです。
浴室の隣にあるのは、休憩室のようでした。ご主人の話では、3組の常連客が建てた小屋だそうで、大雪や倒木で変形したため、現在は廃屋となっているとのことです。確かに、大きな木が屋根に倒れかかっています。
ちなみに、完成当時から、湿気が多く、あまり使われなかったそうです。中に入ってみると、座卓や座布団、ストーブなどが当時のまま残されていました。一見、今でも使えそうに見えるのですが、床にはダニのような小さな虫が動き回っていて、入るのを躊躇う状態でした。ちなみに、机の上には、全国の温泉地を写した古い写真が並べられていました。
星山温泉を管理するご主人は、来年65歳。ここは元々ご主人の両親が造ったそうで、「今は一人でやっている。いつまでやるか分からない」と話していました。
温泉施設ができたのは、平成元年。それまでここは、「稲龍神山スポーツランド」と呼ばれるスポーツ施設でした。
ご主人の両親は、自分で山から木を切ってきて、好きなものを作ってしまうタイプの人だったらしく、今から40年以上前、子どもたちも総出で、アスレチックを建設したそうです。「稲龍神山」という名前は、父親が神様の名前をとって命名したとのこと。
元々お金儲けという感じではなく、家族の趣味の延長という感じだったそうですが、子どもの日には、500~600人が押し寄せるほどの人気スポットだったようです。このため、駐車場用に土地を整地し、現在の広場の高さまで2メートルほど土を盛ったそうです。現在の浴室がある地点より奥は元の標高で、浴室より手前は、盛り土で平らにしているとのこと。
それにしても、ここに至る道を考えると、この場所に車が集結していたことが想像できないのですが、当時は遠出することも少なかったでしょうし、地元の子どもたちが集まっていたということなのでしょうか。
スポーツランド時代の施設の充実ぶりはすごかったらしく、アスレチック遊具のほか、トランポリン、空中滑車、アーチェリー場、卓球場、釣り堀池、カラオケ設備などがあったそうです。夜になると、遊技場で宴会も行われ、20人ほどの常連客がいたとのこと。
浴室棟のはす向かいにある大きめの建物が、遊技場跡です。蜘蛛の巣が張っていたので、中に入ることはできませんでしたが、卓球台や宴会用のテーブルなどが、現在も残っているようです。
こんな山奥に宴会場があったのも驚きですが、それをDIYで造り上げた一家のバイタリティは、見習うべきものがあります。
浴室の隣にあった流しは、カラオケや宴会で飲み食いした食器を洗うためのものでしょうか。ご主人の話では、インフラは電気を通しただけで、水道は無いそうですが、流しには井戸水が使われているらしいです。そのほか、シャワーとトイレは、別棟としてプロに建設を依頼した(普通のことですが)そうで、現在もトイレは使うことが可能です(和式の水洗トイレ)。
それにしても、ここのご主人は話し好きで、入浴後1時間くらい話し込んでしまいました。(その間、お客さんは来ませんでした…。) もしかすると、たまに来るお客さんとの会話を楽しみに、温泉を続けているのかもしれませんね。
ご主人は、膝が悪いそうで、「年金が入って、まとまったお金ができれば、治療したいと思っている。」とのこと。近い将来、温泉をやめて、入院する可能性も匂わせていました。興味のある方は、早めに行っておかないと、いつ営業が終わるか分かりません。(個人的には、誰かに引き継いででも、続けて欲しいのですが…)
ちなみに、帰る頃には、身体のあちこちを蚊に刺されていました。夏場にここを訪れる際は、虫除けが必須です。
- 探索日
- 2015/08/22
このレポートには、さば柄氏 ・ nokinoshi氏 からご提供いただいた写真が含まれています。
- このレポートの目次